[by ヒロ]
「イキマスカ、ノスタルジックサン」
「ソウデスネ、イキマショウカヒロサン」
そう言って僕たちは苦笑いを浮かべながら顔を見合わせた。
5月の初夏の日差しの下既に70kmは走ってきていた。そのコースには途中峠に花折峠そして久多峠までが含まれているのだが、僕たちの足には何故かまだまだ余裕があったのだ
美山と花背の分岐点にある橋の欄干にもたれ休憩しながら、このままでは満腹にはなれないんじゃないのかな?と妙な不安が頭をもたげる。ちらりと隣に座るノスタルジックサンの横顔を見るとやはり彼も少し不満足げな顔をしている
何より今日は彼が「エヘヘ、ボクハオナカガスキマシタ」というお決まりの文句を口にしていない。
ああ、やはり僕たちはもうこのコースでは物足りなくなってしまったのだなと自分たちの成長を喜ぶ気持ちの一方で、そのことを寂しく思う自分がいる。何しろこのコースを「満腹コース」などと誇らしげに名づけたのは、ほんの半年程前の事だったから。
午後の予定からざっと帰るべき時間を見積もり、ここからの距離と現在の時刻から走行可能な距離を逆算する
「ああ、行ってはだめだ。やはりいつもどおりここから芹生峠を越えて帰途につくべきだ」そう思いながら、僕は口にしていた。
「イキマスカ、ノスタルジックサン」
苦しみが待っていると分かっていても引き返せない、それが自転車乗りなのだ。
佐々里峠へ向かう途中大きな亀を拾った、そのままにしておくと車に踏みつぶされそうなので片手に持って走る。
リュックに入れてしまいたいが、こいつ少し生臭い。補給食にはなりそうもないのでしばらくして川に逃がしてやったら大急ぎで逃げて行った、薄情な奴め、ちゃんと恩返しに来いよ。
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