「まるで罰ゲームね。」 温かいシャワーを夢見て帰宅した私に彼女は冷たく言い放った。私はその冷めた口調に少しばかりの興奮を覚えた。暖冬とはいえピチピチの寒そうなサイクリングジャージに身を包み、さらに寒い山へと向かう。峠の下りなどは、まさしく身を切るようなソレだ。彼女にしてみれば私のしていることは「罰ゲーム」に見えるかもしれない。 温かいシャワーを浴びていると彼女がドア越しに訊いてきた。 「大昔の話よ。男は神様から火(知恵)を盗んだの。怒った神様は男に罰を与えたわ。それはなんだと思う?」 シャワーを浴びながら私は答えた。「闘いだ。」その声は幾多の水滴がタイルを打つ音に掻き消される程の小さな声だった。 色々な闘いがある。戦争もそうだ。神様は男達に火の代償として戦うことを求めた。しかし何もネガティブな戦いばかりではない。風呂を出てタオルで体を拭きながら私は今日の戦いを思い返していた。桂大橋からガミくんと共にサイクリングロードを程よいペース走る。途中でアーサーさんと合流し三人で流れ橋を目指す。広い道にでた途端アーサーさんが飛び出し戦いが始まる。どうやらのんびりという訳にはいかないようだ。流れ橋で休憩しているとpapaさんが登場。四人で少し話しをして木津に向かうpapaさんと別れ我々は来た道を戻る。途中でたきやんさんとすれ違い軽い挨拶を交わす。我々3人は久世橋から小塩山を目指す。そして小塩山を登った後、今度は善峰寺を目指す。どちらも初の登坂だ。キツイ坂を自転車で登る。他人から見れば「罰ゲーム」に見えるかもしれない。しかし全力で登坂し頂上でヘタレこんでいる時のアノ感覚。静かな山のテッペンで自分の心拍音だけが鼓膜をノックし続け、体から湯気が昇り苦痛だった寒さが心地良くなる。そして来た道をみて達成感と自分との戦いに勝利した喜びがジワリジワリと体を浸す。「どうだ、みたか!」そう言ってダウンヒルをする。神様が男たちに与えた罰はなにも悪い事ばかりじゃあない。 「ねぇ、答えわかった?」 服を着てキッチンに向かう私に彼女は訊いてきた。私は彼女に「闘いだ。」と答えた。すると彼女はまるで楽しみにしていたショートケーキの上にイチゴが乗っていなかったかのような、残念そうな表情になった。私はその顔を見て「当たりだな。」と思った。ぶーたれた彼女の顔を見てちょっとした優越感を感じながら冷蔵庫からビールを取り出す。ビールをグラスにうつし今日一番の勝利に乾杯し呑もうとする手を彼女の手が止めた。彼女の顔はさっきまでの表情とは違っていて、どこか悪戯っぽい表情に変わっていた。そして静かにこう言った。 「違うわ。」 「大昔の話よ。男は神様から火(知恵)を盗んだの。怒った神様は男に罰を与えたわ。それはなんだと思う?」 彼女はビールを一口飲み私の目を見てこう答えた。 「女よ。」 君がそう言うなら間違いない。
火遊びは程々に・・・。
投稿情報: たきやん | 2010/01/19 21:59
>たきやんサン
気をつけます!
投稿情報: 王子 | 2010/01/20 18:10