[by 王子] 2011.9.8
「納得がいかない」
友人は独り言のように確かにそう言った。落ち着いたバーのカウンターで並んで腰を掛け私たちは懐かしい昔話と近状報告をし、一通り喋りつくし「そろそろ帰るか」と切り出そうとしたした矢先、彼は急に「納得がいかない」と呟いた。私には全くなんの事か分からなかった。相槌をうった憶えは無かったが、彼は私のほうに向き直り、もう一度同じ事を言った。 「全く納得がいかないね!」彼は語尾を強めた。私は彼に渋々「なにがだ?」と訊いた。するとウイスキーで澱んでいた目に光が灯り彼は「よくぞ訊いてくれた!」と言わんばかりに意気揚々と話し始めた。 「今日の昼の話だ。昼食を済ませ会社の休憩室で缶コーヒーを飲みながら煙草を吸っていたら隣の椅子に座っていた同僚が大して面白くも無い話を俺に始めたんだ。コイツが面白くないのは毎度のことさ、適当に相槌をうって俺も毎度のするように聞き流してた。奴が今日話した事の内容なんて覚えちゃいねぇさ。もしかしたら昨日も一昨日も同じ話をしてたのかも知れねぇ。」 私は「それで?」と腕時計に目を落としながら訊いた。彼は話を続けた。「いつものように聞き流していたんだが、ソイツは今日とても奇妙なことを言ったんだ。」私は何も言わなかった。彼は気にせず続けた。「“隠れ巨乳”確かに奴はそう言ったんだ!」彼はグラスに残っていたウイスキーを一気に飲み干すと空中を見るでもなくぼんやりとした何かを見つめながら話し続けた。「なぁ、おかしな話だと思わないか?“隠れ巨乳”だってよ!」彼は声を荒げた。「ふん!馬鹿いってらぁ!隠れるんなら巨乳じゃねえってんだ!」 彼の言うとおりだ。例え人生の曲がり角を間違えて曲がってもコレだけは間違えない。彼は続けた。「“巨乳”ってのを“ジャイアント馬場”に置き換えてみりゃ良い!“隠れジャイアント馬場” ハッ!無茶言っちゃあいけねえ、どんな人混みに居たって隠れやしねえさ!全校集会に混じってたって見つかっちまうさ!」 彼の言ってることは正しい。「言葉のパラドックスさ。」私は彼に言った。パラドックスの意味も知らず。
何故こんな話を私がしているのか?それはちょっと私にも分からない。
ただ、1つだけ確実に言えることがあって、私はローラー中にこんな作り話を考えているってことだ。
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